|
|
|
私には母との思い出で1番に頭に浮かぶ光景があります。
それは運動会のお昼休み。 両親共働きで鍵っ子であった私ですが、運動会の日もそれは変わりません。 父と母は仕事の合間を縫ってお昼休みと徒競走の時くらいしか来れません。 今でこそ共働きは当たり前ですが、私の時代はまだ珍しい時、友達の家は朝から家族総出で校庭の場所取りをしワイワイ応援をしています。 そんな光景を眺めながら、少し羨ましくも、どこかそんな気持ちを母たちに伝えてはいけない、というような、決心めいた心持ちがあったものでした。 それでもいいと思えたのは、いつもよりも早起きをして私の運動会用のお弁当をこしらえてくれている母の姿を見ていたからです。 私の大好物の鶏の唐揚げとシャケとシーチキンのおにぎりを詰めてくれます。もちろん他にもたくさんです、フルーツだってあります。 私はそれを見るだけでウキウキです。運動会頑張ろう!て思えたものです。
いよいよお昼休み。 友人たちは場所取りをしているそれぞれの家族の元へ走って行きます。 校庭をサークル上に敷かれたレジャーシートにそれぞれの家族が華を咲かせて盛り上がっています。
そんな人混みの中、先ずするの母を探すことです。とは言っても探すのに苦労はしません。 仕事で着る派手目なスーツ姿、バッチリメイクをして香水なんかも振っている母の姿はとても目立ちます。 手には2人で食べるには少々大きな風呂敷包みのお重を持っています。 運動会には場違いで、少しヘンテコですが、そんな姿が定番でした。 校庭にはすでにお弁当を食べる場所などはありません。 そんな私たちが行き着く場所は人気のない体育館裏です。 校庭にいる友人家族たちの愉しげな声がBGM、2人で体育館裏に腰を下ろしお弁当タイムです。
でもちっとも嫌じゃありません。大好物の詰まったお弁当と、いつも忙しい母がニコニコ笑ってそこに居てくれているからです。
楽しくて美味しくて、午後の徒競走は父が見に来てくれると聞いて私はさらに張り切りるのです。
今でも鶏の唐揚げとおにぎりを食べるときは、あの時の光景と少し埃ぽい感覚、鼻をくすぐる香水のかおりが蘇ります。私の思い出の味です。 その後出家をし、1番の親不孝をしてしまった私ですが、私がどんな道を選ぼうとも、一度として反対したことのない母の元に産まれたことは、この衆生に産まれた私にとって大きな意義があったように思います。 いつまで経っても自由で、いつまで経っても甘ったれである私には。
母の日とは何か、もちろん日頃の感謝をこめてプレゼントをするのもいいのかも知れません。 ですが、そんな光景を思い返す、母親の顔を思い出す、という時間に充てるのも良いのかも知れません。
|
2022/05/04 住職 加藤 |
|
|
最近の記事 |
|
BACK NUMBERS |
|
CATEGORY |
|
|